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00:みえるもの。みえないもの。
仕事を辞めた。
原因は世間一般的には些細なことで、私にとっては些細なことではなかったという、ただそれだけ、認識齟齬的なものも含んだ諍いだった。なに、ただ私には許せなかっただけだ。不正でもなく違法でもなくブラック企業さながらの体制でも隠蔽体質でもなんでもなく。ただ、命を軽んじるという、そういう姿勢がどうしても許せなかったという、いわば小学生くらいの喧嘩原因で退職という道を選んだ。
仕事は比較的うまくいっていて、主任という席を与えられ、後輩にも恵まれていたけれど、どうしてもそこだけが許せなかった。後悔はない。何しろ望んで選んだ道だ。自分を捻じ曲げてもいい部分と、捻じ曲げてはならない部分の分別は、できているつもりである。
(だったら何で、こんなに気分が暗いんだろうなあ)
結局は敗走だからだろう。完全勝利と呼べるものでは到底なかった。
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