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そこのオーナである四楓院友梨佳は今年25歳になる。
大層立派な名前を口にするのは自分でも恥ずかしく、友梨佳はめったに名字を言う事もないし、誰かに聞かれてもはぐらかすか「篠田」と名乗ることが多い。
そして、どちらかというと篠田の方がぴったりとした、ナチュラルな外見をしていた。
髪は緩く一つにまとめられ、コットンのアイボリーのゆったりとしたシャツに、デニムのロングスカート。その上から黒のカフェエプロンをしているその姿は、どこにでもいる女の子といったように見える。
「ねえ、柚希?その恰好は何とかならないの?」
もうすぐ開店という時間になり、もう一度友梨佳は柚希を上から下まで見た。
6月というただでさえ梅雨で湿っぽい時期に、真っ黒のシャツに、真っ黒のチノパン、真っ黒のスニーカー。要するに全身真っ黒。喪服にはさすがに見えないが、昼間からカフェに来るような恰好でもない。
「これが俺の正装だ」
「でもね、私にもこの店のコンセプトというか、来て欲しいお客様がいるというか……」
「いつから人を見かけで判断するようになったんですか?」
じろりとパソコンから顔をあげ、急に窘めるような言い方をした柚希に、友梨佳は小さくため息をついた。
「もういいわ」
諦めたように言って友梨佳は今日のランチのレッドキドニーのチリコンカンの鍋をゆっくりとかきまぜた。
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