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日曜日の空いた電車の中に乗り込むと、座っていた男の子が立ち上がった。
「昨日のお兄ちゃんとお姉ちゃん!」
昨日、悠真のマンションの下で会った大輝だ。
だけど、ここは恐らく昨日とは違う世界なのに……。
大輝も黒い渦巻きから出て来たらしいから、竹中先輩のように同じように毎日移動しているのだろうか?
「大輝? 1人で何してんだ?」
「丁度良かった。ボクね、学校へ行くところなんだ。風ノ街学園に行きたいんだ。一緒に行ってよ」
「へっ?」
悠真がきょとんとした顔になって私の顔を振り向いた。
「どうして学校へ行くの? 何か忘れ物?」
「……確かめたいんだよ。本当に初等科が無いのか」
泣きそうな表情になった大輝を見て、私は胸が痛くなった。
この世界にも初等科は無いのだろう。
だけど、きっと大輝は元々は初等科がある世界にいて、その学校が無いと言われて信じられずにいるのだろう……。
「一緒に行くのはいいけど。今日は休みだし、初等科は存在しないぞ」
悠真がそう言い放つと「それでも行きたい」と大輝は言った。
「ボク、あの学校には大切な友達がいるんだ」
その力強い目つきに何も言えなくなり、私たちは動物園はやめて大輝に付き合うことにした。
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