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問いただされているこの状況が戸惑うから、もうそれ以上追求しないでほしいと目で訴える。
じっと見返して、そこでようやく何かがおかしいなと気付いた。
目を見つめているのに、視線が合わない。
口を閉ざすわたしの言葉の先を、彼はいまだ待っているようだった。
「・・・あ、」
なぜ気付かなかったのか。
なぜ、気付けなかったのか。
彼の纏うこの空気を、わたしは知っている。
以前看護学校の実習先で出会った、朗らかな婦人とよく似ている。彼女はよく声をあげて笑っていたので、全然違うのだけれど、光を返す瞳の色がそっくりだった。
そっと近寄ってみる。
白杖もなく、介添えもなく、まったく危なげなく歩いているから全然わからなかったけれど。
空科は、記憶の中の婦人のように、ただまっすぐ、静かに前を見つめていた。相手の視線の先を予測して、耳を聳てて微笑んでいる。
近寄るわたしを、その瞳で追うこともなく。
「・・・空科さん・・・目が・・」
何も映さず真っすぐだから、色がないと感じた。
硝子のように光るから、熱や意志がないように見えてしまった。
わたしがちゃんと見ていれば、もっとはやく気付けたはずなのに。
声に応えた瞳がうすく細められ、目じりに皺を刻む。
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