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「ええ、もうだいぶ前から。歌乃さん、足音を消すのが上手ですね」
「・・・あ、ごめんなさい」
ちょっと驚きました、と笑う空科の空気が和らいだ。
「私が何かおかしな行動をしてしまったのかと、すこし心配しました」
「・・・目が見えないことに、気付かなかったくらい、空科さんの所作はきれいです」
そっと空科の手をとった。
「・・・何か、困ったことがあったら、手伝います」
「ありがとうございます。占術師様も歌乃さんと同じくらい、お優しい方ですから、安心してください」
空科の長い指が、わたしの手を包み込むように握り返してきた。
「もう、見えなくなって長いですから、城の中だけなら特に不便もありません。それに、目が見えないお陰で占術師様の世話係を務めさせて頂いていますし」
誇らしげに、彼は笑った。
笑い返して、けれど目が見えないと世話をするのは大変なのではないかなと首をひねる。
「不思議そうですね」
空科の笑顔は、春の目覚めを思わせる様な柔らかな印象だった。心地よい小さな笑い声に合わせて、細く長い髪が少しだけ揺れている。
「歌乃、占術師はねぇ・・・王族以外会えない事になってんの」
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