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藍色の布に包まれ、橙の光が揺れる柔らかな雰囲気の部屋。
毛足の長い灰色の絨毯の真ん中に置かれた丸テーブルと、それを挟むように置かれた二脚の椅子。その一方に占術師が腰を下ろし、もう一方を指し示しながらこちらを見ている。
空いた椅子に置かれた、浅葱色のクッションが目に優しい。
テーブルの上では暖かなお茶の湯気と、邪魔にならない程度の香の匂いが競い合うように天井へと昇っていた。
「こっちへ来てお座り、お嬢さん。婆に顔をよぉく見せておくれ」
フードを取って手招きする老婦人に、ほっと胸を撫でおろして椅子に腰かける。
部屋に満ちる橙の明かりと、香の匂い、そして何より占術師の顔に刻まれた皺が、歌乃の緊張を拭い去ってくれた。
「ほぅ・・・お前さん、もう力を使ったね・・・名前は?」
「・・・歌乃」
「歌乃か、そなたらしい、良い名じゃ。大切におし」
しわがれた手が歌乃の手を優しく包み込むように触れた。年を経て優しい瞳が歌乃を見ている。
占術師の言う『力を使った』とはどういう意味だろうか。
思い当たることが、ないこともない。死んだはずの咲良が、生きてた時のこと。
何が起きたのか、みんなの記憶から消えてしまっていた。海晴を除いて。
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