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花ノ歌01
窓から射す陽光が、大小さまざまな花瓶に反射する。ただの飾りではなく使われていただろうそれらの花瓶は、そのすべてが空っぽで、うっすらと白く埃をかぶっている。
もうずっと、使うどころか動かすこともなかったのだろう。
殺風景な景色が長く続いている。
色のない景色の中に溶けて消えそうな、ほっそりとした空科の背を少し離れて追う。陽光を抜けた影の中で、ふと空科が足を止めた。
「歌乃さん」
光の向こうで、物音ひとつ立てずに振り返る。白い肌が影の中で淡く浮かび上がる。
「どうかしましたか?」
空科の細い瞳がわたしを映していた。色のない、熱のない、まるでそこに意志など宿っていないかのような、硝子の瞳。影の中でもきらりと光り、鏡のようにわたしを映す。
「なにか、怯えているようですが」
返事にもたついているわたしに、空科がもう一度聞く。
「・・・いえ、えっと・・」
空科に対して、何を考えているのかわからなすぎて怖いなと思っていた。なんの感情も見えなさ過ぎて、恐ろしいなと。
けれどそんなこと正直に言えるはずもなく、何も言えずに、ただ空科をみあげた。
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