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彼との出会いは、配属異動。
先輩の退社に伴って穴埋めに駆り出された私を迎え入れた隣の店舗の副店長。
この会社に入って一年と二ヶ月後の事だった。
「その机、好きに使ってくださいね」
34歳、中途入社。
前職は多すぎてキリがないという彼の第一印象は「人生イージーモード」。
独特のイントネーションが不思議と心地良い声色で、
柔和な雰囲気にそぐわぬスピード昇進。実力は頭一つ抜けていた。
『団塊世代を生き抜いてきました』と言わんばかりの店長とは対照的に
彼の纏う空気感は味っ気のないもので、何故か心細さが軽減された。
業務は簡単ではなかったけれど、ふと彼を見ると気持ちが安らぐ。
匂いを見つける。耳が探す。目が追う。心を、呼ばれる。
「副店長、昨日はちゃんとベットで寝ましたか?」
キッカケなんてものはなかった。
気付いた時には私の中で特別になっていた。
「ベッドまで辿り着かないんですよね。ソファで寝ちゃう。」
子供みたいな彼の言動すべてが愛しい。
〝彼″でなければ、きっとこんな感情は生まれない。
「風邪ひきますよ」
自分の事なのに、至極興味なさそうに、でも少し恥ずかしそうに笑う彼。
「眠くて眠くて…」
肯定を拒みつつ、その通りですと言わんばかりに目を合わせない彼。
小さい事だけれど、波のないその感情が動くのが嬉しい。
接点は『同じ店舗』。
ただ、それだけ。
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