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グッバイ、マイデイズ。
いつの間にか泣いていたけれど、その涙を拭うこともなく閑散とした街を走り続ける。ベッドに入ると嗚咽で声にもならなくて、どうしようもなかった。近くにあった携帯電話を握ったけれど、もう誰もかける相手がいないことに気付いて壁に投げつける。
私はずっと、暗闇の中で光っているたった一つの星に願いをかけていた。
ここから出してください、と。
でも、その光もなくなってしまった。ひとりだった。私は。世界でひとり。
こんな世界に生きる意味などあるのだろうか。
そう考えた途端、ふと、海のイメージが目の前に広がる。
──そうだ、海だ。まだ五月の頭で肌寒いけど、海に行こう。生物の生まれた海に、私は還るのだ。一人で。
そんな、馬鹿げたことを大真面目に考えた夜があった。あれは、四年前の五月。ふたをしたまま重りを括り付け、深く深く沈めていた記憶を掘り返したのは、彼のささいな一言だった。
「先輩って、不満とか何一つなさそうですね」
目を瞑って横になっていたのに、咄嗟に否定しようと心臓が唸った。けれども、それを堪えてから「どうしてそう思うの?」と、自分をひどく落ち着かせながら私は問いかける。
「だって、大学でも部活や授業で毎日充実しているじゃないですか。どう見てもリア充ですよ」
目を開くと、薄暗い闇の中に彼の顔があった。横になっていた私の顔を覗き込むように、彼はベッド元に座っている。私は彼の言葉に少し笑うことでごまかした。
だけど多分、いつかの話をしたら信じられないと彼は言うだろう。だから決して、口にはしない。けれどあったのだ。私にも、あったのだ。
死んでしまいたくなるほど消えたいと思ってしまった夜が。
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