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採石師
―Ⅰ―
大陸のほぼ中央に位置するここ、アルシュファイド王国は、ふたつの峻厳な連峰が東西にそびえ、北の端から南の端へと貫いている。
そのため、侵略の歴史を持たず、現在も平和な国だ。
この国には双王と呼ばれる2人の王がいる。
1人は、政治に腕を振るう政王。
もう1人は、王国を丸ごと覆う強大な保護膜である絶縁結界を維持する祭王。
だがそんなことを知らなくても、アルシュファイド王国では生きていける。
彩石を拾いさえすればいいのだ。
どんな彩石でも1カロン10ディナリで引き取ってくれるので、採石は手軽な職業だった。
採石師ユクト・レノンツェは12歳だ。
この採石地区ユーカリノ区にあっても、この年齢で採石師になる者は珍しい。
王立技能学校へ行くのが一般的だ。
だがユクトは一般的ではなかった。
数ヵ月前にチタ共和国から入ってきて、以来、採石師として働いている。
今日もユクトは彩石を拾っていたのだが、不思議な光景を見た。
彩石が空中に浮いているのだ。
じっと見ていると、その中心には1人の女がいて、彩石を選んでは右へ左へと指示を出している。
そして彼らが採石を終了したあとには、手に取りやすい彩石が残っていた。
ほかの採石師たちは、それをありがたがって、拾いに行く。
彩石は普通の石と同じ重さだ。
一般に求められるのは、身に付けやすい、持ち運びしやすい彩石でもあるし、小さくても力量が大きければ高く売れる。
そのため、採石師たちは手頃な大きさの彩石を求めるのだ。
ユクトもほかの採石師たちに倣って、小さな彩石を拾い集める。
集めながら、彼女はまたいつか来るだろうかと考えた。
そのときに来れば、今日のように採石しやすい。
選別場に行って今日の分を換金してもらい、宿に戻った。
本当は家がほしいが、12歳の子に事情も聞かずに家や部屋を貸してくれるところはなかった。
共同浴場で湯を浴びて、宿の食堂で夕食を食べる。
それがユクトの毎日だった。
ところが、この日は様子が違った。
夕食を摂っているその席の前に、2人の騎士が座ったのだ。
顔をあげると、にこやかな笑顔があった。
「やあ、俺はスティルグレイ・アダモント。スティンと呼んでくれ。こっちはムトだ。君は?」
「ユクト・レノンツェ」
「さっき採石してたろう?それで見掛けたんだが、君、両親や養い親は?」
「いません」
「何歳だ?」
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