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―Ⅱ―
採石場で採石するのに必要なのは採取した彩石を入れる袋だけだ。
なんの能力もいらない。
ユクトは朝食を摂って身支度をすると、採石場に馬車で向かった。
この馬車はいくつかある採石場を循環する馬車で、1回乗るごとに100ディナリ必要だ。
ユクトは馭者台の決められた箱に100ディナリ硬貨を入れて、馬車に乗った。
そして揺られること時間半ばほどで、ユクトは馬車を降りた。
そこは小規模な採石場で、手頃な大きさをした彩石が多い。
ユクトはいつもはこの場所に来ていたのだが、昨日はなんとなく大きな採石場に行ってみたのだ。
ユクトが探すのは力量の大きな彩石だ。
力量が大きく、形が小さな彩石は、こういうところに多い。
どうして皆が大きな採石場に行くのか、ユクトには判らない。
あちらの採石場は形の大きな彩石が多いのだ。
ともかく、採石していると袋がいっぱいになり、休日でも開いている選別場に行って買い取ってもらう。
ちょうど昼食どきなので、併設されている食堂でヴォッカのごろ煮を食べていると、家族連れの多さが目についた。
急いで食事を済ませて、食堂を出る。
それから、さて、もう一仕事と先ほどの採石場へ戻って、袋がいっぱいになる度に換金する。
換金した金は、そのまま預かり場に預ける。
そうすると、引き出し場で好きなときに引き出せるようになるのだ。
ユクトはそんな毎日を過ごしていた。
それからどうすればよいかは判らない。
とにかく今は、金を貯めて生活することが第一だった。
養い親を探して何になるのだろう。
王立技能学校に入って何になるのだろう。
士官学校に入って何になるのだろう。
採石場で採石して宿暮らし…それは確かにお金の面で要領のいい生活とは思えなかったけれど、そのうち家を貸してもらえる。
そうすれば何の問題もない。
ユクトはそう考えながら宿に戻った。
共同浴場で湯を浴びて、よごれ物などを宿の洗い場で洗う間に、食事を摂りに行く。
すると昨日の騎士たちがいて、隣に座れと誘ってきた。
「今日は1日採石してきたのか?」
「そうです」
「言葉遣いがいいな。チタ国で教わったのか?」
「いいえ、オルレアノです」
「するとオルレアノからチタを経てアルシュファイドに来たってことか?」
「そうです」
「オルレアノはどういう国だ?」
「オルレアノは…」
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