採石師

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ユクトは言葉に詰まった。 思い出されるのは豊かな草原と青空だが、そこにはよく見ると戦のあとがあるのだ。 スティンが言った。 「じゃあ、チタ国民じゃなくてオルレアノ国民じゃないのか」 「オルレアノには帰りたくありません」 「そうか」 スティンはそう言って、今度は、アルシュファイド国民になるのはどうだ、と聞いてきた。 「それは…正直、どちらでも構いません」 「国民として登録すると、収入を申告して一定額支払えば、それに応じた金額が50歳から受け取れるんだ。楽だぞ」 「そうなんですか」 「ああ。ほかにも、病気や怪我の心配をしなくていいしな。医者にかかっても金を払わなくていいんだ」 「でも、薬代とかはどうするんです?」 「国が払う。それだけの余裕がある国なんだ、アルシュファイドは」 そうなんですか…とユクトは呟いた。 「養い親を付けるっていうのは、食生活が安定して、ひとつ所に留まって生活する、ということだ。養い親との相性にもよるけど、例えばこのまま採石師を続けたいなら、ユーカリノ区の養い親に部屋を貸してもらって、食べさせてもらうんだって考えてみろ。今とあんまり変わらないだろ。それどころか、宿や食事の金がかからなくなって、楽になる」 ユクトは頷いた。 話を聞いてもらえているので、スティンは続けた。 「王立技能学校では、いろんな職種の資格が取れるんだ。採石師が好きなら無理にとは言わないけど、無料の宿泊施設があるから、宿や食事の金の心配をしなくていいし、例えば彩石選別師資格を持ったら、採石のとき、より高い価値の彩石を拾えるようになる」 「ああ…それは便利ですね」 「そうだろう。士官学校はまあ、必ず騎士にならなけりゃいけないってわけじゃないんだ。技能学校と同じで、宿と食事の心配をしなくていい」 「騎士…とはなんですか。俺に声を掛けているのは騎士の仕事なんですか」 「そうとも言えるな。騎士は王と国民に仕える者だ。だから困っていたり、君のようにアルシュファイドで生活する要領が判っていない者なんかには、声を掛けるのが役目のひとつだ。俺たちはまあ、ほかに特別な役目があるんで、暁の日にほかの騎士に引き継ぐ」 「王と国民に仕える…」 「いざというときは剣を振るう。そういう覚悟を持つ者だ」 「覚悟…」 「まあ、俺のお勧めは家族を持つことだな。技能学校や士官学校では、仲間を作る機会はあるがな」
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