採石師

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       ―Ⅲ―    ユクトは円の日は休むことにしている。 休むというより、ユーカリノ区を覚えるようにしていた。 いつでも望みの採石場に行けるようにだ。 採石場はどこも同じなのだが、例えば小さな採石場に形の小さな彩石が多いなど、違いは一応あるのだ。 そこで、循環する馬車に乗って、採石場の規模と採取できる彩石の大きさなどを覚えて、地図に特徴を書き込んでいる。 この作業は結構楽しくて、ユクトは、こういう楽しみを諦めることになるのだろうかと頭の隅で考えたりした。 採石師は生きていく上で始めたことだったけれど、その毎日は楽しくもあった。 ユクトは、まるで採石師の職業に別れを告げるかのように循環馬車を乗り継いで、いつもは来ない遠くまで来た。 そこには彩石発動館があり、ユクトは金を払ってなかに入った。 そこで名のあるサイセキの発動の様子を初めて見て、ただ拾うだけだった彩石に特別な興味を持った。 夢中になって見ていると閉館の時間になり、ユクトは慌てて宿に戻った。 すると、玄関広間にスティンたちがいて、心配したぞと言った。 「居場所は判っていたけど、こんな暗くなるまで外にいていい年齢ではないぞ。とにかく無事でよかった」 そうスティンが言って、ユクトの頭に触れた。 久し振りにやさしい手に触れたと思った。 「ごめんなさい」 「うん。今後は気を付けろ」 それからユクトは共同浴場で湯を浴びて、夕食をスティンたちと摂り、明日の時間を確認して別れた。 ユクトは、部屋に戻って寝支度をすると、少ない荷物をまとめた。 数泊するかもしれないから、宿は一旦引き払うようにと言われたのだ。 明日、何が起こるのか判らなかったけれど。 ユクトは、静かな気持ちで眠りに就いた。
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