第1章 人気作家はつらいよ

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あら? 姫はもしかして、帝の事を憎からず想っていたのかしら? 不死の薬って何なの? 天上の人々が全員不死なら、なぜ前世の因縁などというものがあるの? 羽衣を着たかぐや姫は、すぐさますべてを忘れ、迎えの車に乗って、天へ昇ってしまう。 残された翁と媼は嘆き悲しみ、病を得るが、薬も飲まずに伏せってしまう。 帝もまた、届けられた手紙を読んで悲嘆し、添えられた不死の薬も飲まずに壺を添えて従者に渡し、「駿河の国にあるという、天に一番近い山」へ持って行くように命令する。 従者はその山の頂上へ昇り、かぐや姫の手紙と不死の薬の壺を並べて燃やし、それ以降、この山を「富士の山」と名付けた。 という所で、竹取物語は終わるのだ。 大人になって読み返すと、納得のいかないことばかりだ。 せっかくもらった薬を、天に一番近いところで燃やして、煙を届けたところで一体何になるのか。 私だったら、こんな終わり方にはしない。 私だったら… 式部はそこで、はっと思い立って、小机の前に座り直した。 私だったら、この物語をどう描くかしら? この、紫式部ならば。 式部は、胸の内から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。 「今夜は、長い夜になりそうね」 お気に入りの筆を持つと、墨を含ませた。 少しだけ考えてから真っ白な紙に書きはじめる。 『いまはむかし、たけとりのおきなといふものありけり』 まぁ書き出しは、これしかないわね。 名も知らぬ作者へのリスペクト。 そして、次の行は… こうして、新説『竹取物語』は幕を開けた。
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