4人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
もう少し粘れば、きっといける。
右によろめきかけた体を、足の踏ん張りでなんとかもたせる。
左に流れた重心を、たたらを踏みながらも支えんとする。
よいしょ、よいしょと声に出し、おぼつかぬ足取りで、右へ左へ。
腕にも足にも力が足らず、あちらこちらと揺れていた体は。
「あ、痛っ!?」
いよいよ壁にぶつかった末に、踏ん張りも及ばずばたんと倒れた。
幸い、大事には至らない。落とした陸上のハードルは、腕を挟むことなく地に散らばった。
それは幸いだったのだけれど、しかしそれはそれとして――痛い。
打ちつけてしまった肘と膝とが、ずきずきと疼いて仕方がない。
それでも立たねばならぬので、やれやれと内心で嘆息しながら、少年は両手で地面をつき。
「なんというか、相変わらずね」
まったくというため息の混ざった、少女の声を聞いた。
体操服姿とハーフパンツ。短い裾から覗くのは、すらりと伸びた白い脚。
セミロング・ヘアを運動のために、シュシュで縛った髪型が眩しい。
夏の逆光を背に浴びる、クラスメイトの女子――星野弓美に対して、少年は苦笑いで応じた。
最初のコメントを投稿しよう!