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「気にしなくても、本職よ、私。それに、ほら」
「――おおい、高牙。高牙天満!」
弓美が示した方から、声が聞こえる。
先程まで少年を指導していた、いかつい風貌の体育教師だ。
「もたもたしてるとチャイム鳴っちまうぞ。イチャつくんなら着替えてからやれ!」
「……だって」
イチャつく、という表現については、多少なり照れくさい部分もあったようだが。
ともあれ、彼の言う通りだと、やや赤面しながら弓美が言った。
そういうことなら仕方がない。チャイムが鳴ったところで、次は昼休みだが、学食の座席を取る時間がなくなってしまうのは困る。
「了解」
あはは、ともう一度苦笑すると、少年は弓美の言葉に甘えて、残りのハードルを取りに向かった。
緑原高校二年生――高牙天満。
かつて病院の白いベッドで、ビデオと本を友達にし、日々を過ごしていた少年は。
今は体操服を着て、とりあえずは体育の授業にも出られるようになった、十七歳の高校生になっていた。
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