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#二 上野駅(二)
ガアッ!!
「!?」
いきなり掴み上げられて、少年の顔が驚きに歪む。軽いとはいえ、右腕一本で持ち上げるのはかなりの腕力だ。
周りを行く面々の間にも、駅員やら警官やらを呼ぶべきか判断しかねて動揺が広がる。
そんな周囲の動揺を察して、騒ぎになるのはまずいと判断したのか、男はそっと少年を下ろすと苦々しげな口調でつぶやいた。
「……素敵なお兄さんと呼べ」
「はあ?」
思わず聞き返す少年。そりゃそうだ。
なのにその反応が不満なのか、男はさらに声を荒らげる。
「だから、俺はおっちゃんじゃねえ! こう見えてもまだ二十歳前だ!」
「いや、こう見えてもって言われても、ほとんど見えてねーし」
少年の言う通り、服は全身紺色だし顔は笠で隠れてるしで、露出した部分だけで年齢を推算するのはほぼ不可能。
「見た目なんかどうだっていい。とにかく、素敵なイケメンのお兄さんと呼べ」
「なんか増えてる!?」
叫びつつも、今すぐこの場でぶっ殺されるワケでないというのは少年にも伝わった模様。
ホッとして力が抜けたのか、ヘナヘナとその場に座りこむ。
と、同時にぎゅるるるると響く腹の音。
男は笠の端を指先で持ち上げて少年を見やる。イケメンか否かはさておき、覗く顔つきは確かに若い。
「おまえ、ハラ減ってるのか?」
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