2.Armour Maiden

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2.Armour Maiden

 冬も近づいてきたWEU(West European Union=旧フランスがポルトガルとスペインを併合して誕生した欧州西部を束ねる国家)東部の田舎道を、一台の馬車が走っていた。  馬車の客はただ一人、金色の髪を短く切りそろえた少女だ。歳は十五~十六歳といったところだろうか、馬車が路面のギャップを踏むたびに小柄な体を跳ね上がらせ、時折(ときおり)お尻を痛そうにさすっている。  木炭車の使用が許可されているのは尉官以上の兵士からである。連合軍司令部からの極秘指令を受けての任官とはいえ、諜報部所属である彼女――アーサリン・ブラウン上級曹長の立場は大隊幕僚(だいたいばくりょう)にすぎない。彼女は舗装されていないデコボコ道にうんざりしながらも、馬車の揺れにただ耐えるしかなかった。  ―― …………ドォォォン………… ――  風に乗って砲弾の炸裂する音が聞こえる。はるか北東の国境付近で、歩兵部隊による塹壕戦が繰り広げられているのだ。     
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