2.Armour Maiden

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 さすがに十キロ以上も離れたここまで砲弾は飛んでこないが、現在向かっているインゴルスハイム基地はまた別の意味で最前線だという。アーサリンは少し冷え込んできた初秋の空気に身を震わせながら、基地の司令官宛の指令書が入ったファイルを胸に抱え込んだ。  基地に到着すると、アーサリンは馬車から降りて御者に礼を告げ、自分と同年代であろう歩哨の兵士に書類を渡して入門の手続きをした。面倒な手続きに十五分ほどかかった後、大きな鉄の門の脇に設けられた小さな扉が開き、ようやく彼女は基地内に入ることを許された。  インゴルスハイム基地は元々学校だったのを改装したものだ。校舎だったところが兵士の宿舎となり、体育館が兵器の格納庫と修理ドック、グラウンドが訓練場になっている。  アーサリンはかつて校門だった入口から兵士宿舎へと通じる道の途中、扉が開いたままになった格納庫の前でふと足を止めた。 「AMだ……」  そこには全長五メートルほどもある鋼鉄の巨人が、整備用のハンガーに両肩を掴まれてぶら下がっていた。『Armour Maiden』――化石燃料が完全に枯渇した現在、十年ほど前から戦車に代わって世界中で使用されるようになった人型兵器である。  前掛けのような機体の正面ハッチが上に開き、コックピットの内部が見えている。その中心部には、海のように青く輝く大きな石の塊が鎮座(ちんざ)していた。あれこそが『GETS』――この兵器の動力を生み出すための心臓部だ。     
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