2.Armour Maiden

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 それ以降、人々の生活様式や産業は十九世紀末のレベルにまで衰退した。蒸気機関や木炭エンジンによる発電でなんとか機械文明は維持されていたが、それも森林資源の乏しいヨーロッパなどでは軍事利用に制限されているという有様だ。  そんなとき、人類に新たな転機が訪れた。とある極東の島国で、エネルギー資源の問題に革命を起こす鉱石が発見されたのだ。  その鉱石は単体では何の役にも立たないただの石ころだが、二十代までの未婚女性の素肌に触れたときにだけ熱と電気エネルギーを発するという、なんとも奇妙な特性があった。  それが発見された当初は、科学者たちによって様々な憶測が飛び交った。といっても「百年以上にわたって続いた戦争で童貞のまま死に、地下に眠っている男たちの情念が結晶化したものではないか」とか、「かつてこの地に住んでいた民族の変態性が乗り移った奇跡の産物ではないのか」といった半ばオカルトじみたもので、結局真相は何も分からなかったのだが。  むしろ問題だったのはその鉱石の用途だった。愚かな人類はこの素晴らしい発見をエネルギー問題の解決や戦禍からの復興に用いるより先に、またも兵器に転用したのだ。  最初にそれを行なったのは、今なお比較的高い文化と国家の体裁を保っていた欧州と北米を我が物とせんとする野望を抱いたゲルマニア帝国――五百年近くを経て再び帝政となっていた旧ドイツだった。     
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