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五月
自慢ではないが、九歳までに住んでロンドンにいたこともあり、英語だけは絶対的な自信がある。
先月末に一階の事務室前に、四月の模試の各科目の優秀者が張り出された。建築学科志望の俺は理系でサクラは文系だったので、共通の話題は英語だったのだが、その英語では俺が一番、サクラは四番だった。
ゴールデンウィーク明けの日本晴れの日、欧米の観光客だけでなく日本人も半袖で外出する人が出てくる頃だったのをはっきり覚えている。いつもの四階の教室で勉強している時、その扉が開いた。
「カメイ君、だよね?あの英語、どうやったらあの八十三という驚異的な偏差値が出せるの?」
意外に馴れ馴れしいなと、若干印象を悪くした。無論知っていたが、白々しく聞き返した。
「ん、君は?」
「サクラでいいよ、事務の人に聞いちゃった。英語のトップが実践している勉強法を聞きたくて、どんな人か教えてって」
「ぶっちゃけたまに難しい単語があるからそれを覚えるくらいだよ。昔イギリスに住んでたのが相当活きてるね。ごめんね、参考にならないと思う」
「そっか、やっぱそうだよね。ただの努力であれだけ飛び抜けることは難しいよね」
俺も下調べはしている。本名は桜木京子で、お世辞にも捻りは感じられないごく普通の名前だ。
「君は確か国語と日本史、それに文系数学もトップでしょ?それなら英語が四位でも別に問題ないよね」
「問題はないよ。さっきもいったけど、どうしたら偏差値八十三が出せるか興味があっただけ」
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