五月

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   サクラは京都大学志望らしい。理由は深掘りしなかったが、恐らく高みを目指したい系なのだろう。俺はそのような前向きな事情ではなく、あるコンプレックスのため再挑戦を余儀なくされた系だ。この子は地頭の良さだけでない、俺が気にしていることを無慈悲に突いてきた。 「理系なんだよね、他は物理と数学?ちなみにどこ志望?」 「そう、物理と数学。スカイツリーを間近に見て建築に憧れて、とある東京の大学を目指してる。名古屋にもあんなランドマークのようなかっこいい建物を建てたいと思って」 「今年は行けそう?」 「この前は英語だけでいけると思って甘く見てたんだ。だから物理と数学も徹底的にやって、圧倒してやるよ」  実は物理と数学の成績は絶望的で、毎回平均点以下を叩き出している。サクラの手前、恥ずかしすぎて見栄を張るしかなかった。高校の同級生や先生からも英語だけの人間、英会話スクールなら明日にもできる、と揶揄されていた。まさに、下手の横好きを体現しているような存在だ。人間関係に疲れ、知り合いがおらず勉強に集中できそうなちょっと遠い予備校に通うことにしたが、この選択が正しかった。 「苦手な英語のことを聞ける人ができてよかったよ。たぶん先生よりできるっしょ?お互い志望校行けるといいね。」  あれで苦手とか嫌味にしか聞こえないが、でもそんな彼女のことをもっと知りたくなった。 「LINE教えてくれる?」  もう次はない、焦りからか咄嗟にこの言葉が飛び出してきた。サクラはまるで予感していたように薄っすら笑顔を見せ、スマホを取り出した。
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