八月

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八月

 夏休み。予備校に私服の現役生らしき人間がたくさん出入りするようになった。この頃になると一部の現役生は実力を発揮し始め、浪人生が焦りだす時期でもある。一方、階段の下や廊下でペラペラしゃべっているだけの迷惑極まりない奴らも多く、はっきりと鬱陶しかったので、予備校近くのカフェで勉強する頻度が増え始めた。 「ん、サクラからLINEだ」  サクラが最近どこで勉強しているのか聞いてきたので、位置情報をそのまま送信した。相変わらず英語に助けられ、数学と物理が伸びない日々が続く。シャープペンの芯がポキッと折れる。 「ちっ、またか。今更もう引き返せねーだろ」  タブレットを使っているスーツを来たビジネスマンらしき人が輝いて見える。大学生らしき美男美女の店員は眩しい。このカフェには今の自分にとっての勝ち組が集っているので、そのオーラを受けたいところだが今はまだその気はない。 「はい、発見。四階いないし避けられてるのかと思っちゃった。相変わらず英語は神がかってるよね」 「はい、見つかりました。別に避ける理由ないでしょ。今のあそこは人がたくさんいるから集中できないんだよ」 「それか、数学と物理が引き続きダメで現実逃避してるのかなとも思った」  ニヤけながら踏み込んで欲しくない部分に立ち入られるのは、やはりいい気分ではない。 「うっさいなあ、こっちは本当に気にしてるんだよ。物理と数学のこと言うんじゃなかったわ」
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