四月

1/1
前へ
/22ページ
次へ

四月

 巡り巡って、新たな桜の季節が始まりを告げる時にサクラと出会った。とある予備校の浪人生向け英語の授業に彼女はいたのだ。色白でショートカット、襟足はちょっと跳ねている。身長も高めで声もタカラジェンヌのように通る。結論、俺はサクラに夢中になった。最初の挑戦に失敗した自分の精神的支柱になると確信した。  授業が始まった。英語の講師がプリントを配布して回る。受け取った人は隣の人に渡すように指示が飛んだ。俺は隣にいたサクラにプリントを回した。 「ありがとう」 「いえいえ」  受け取った側は軽い会釈のような動きをする人間が大多数の中、サクラだけは隣の俺に声に出してお礼を言ってくれた。これが最初の会話だった。  予備校は七階建てで一階は事務室や講師の控室、二回から六階が教室、最上階は自習室となっている。俺は自習室は人口密度が高くて嫌だったので、授業の無い時間は比較的人が少ない四階の奥の教室で自習していることが多かった。同じ考えだったのだろう、自習時もサクラと同室になることがよくあり、向こうも顔だけは認知していたはずだ。もう桜の花はほぼ散り、昼は暑くなり出す四月の末頃だったと思う。まだ彼女と会話らしい会話はしたことがなかったが、今年最初の実力模試の結果が出た直後から、俺の初恋が徐々に動き出すことになる。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加