神が××××日

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私を閉じ込めるために作られた監獄。 神々が生きてきた小さな箱庭。 切り離された空間。 庭に咲き誇るは色とりどりの草花。 世界を眺めるだけでは飽き足らず、私が手塩にかけて育てた美しいと評される花の庭。 その先にはどこからとも知らぬ水が流れ落ちる小さな滝。 水に囲まれた中にひっそりと佇む憩いの場。 向こうには小さな家屋が立つ。 楽園と呼ばれる最果ての庭園。 「……ここが、楽園なのか」 「あぁ、そうだよ。ここは私が最初に作った礎。世界の果てに存在する、はじまりの楽園にして、おわりの楽園」 待ち人が現れたことに興奮を隠しきれず、私はうずうずしながら庭園内を眺める彼に声をかけた。 彼は突然現れた私に驚き、石になったように身体を硬直させた。無理もない。何せ、彼はずっと一人で生きていたんだ。人のようなモノに出会うのは久々なんだろう。 数秒固まった後、おずおずと彼は口を開いた。 「……あんたは」 「これは失礼。自己紹介がまだだったね。私はこの楽園の管理者であり、この時代を創世した神、というべき者さ」 乱れた服装を正し、ゆっくりと一礼。そして私の存在について語る。自己紹介とは、こんなものでよかったのか。言い終わって、もっと膨らませたほうがよかっただろうかと後悔の念が募る。仕方ないだろう? ここにきた人は彼が初めてなんだ。彼がここを訪れるまで、私は一人だった。話し相手なんて画面越しに移った人に永遠と一人事を零す。それだけだったんだ。 「オレ…は…」 それはきっと彼も同じことが言えるのだろう。私と同様に人類が滅んでからも、彼は一人で生きてきた。それこそ彼も話相手なんていなかったのだ。 初めから一人の私は準備が出来ていたが、彼は準備なしの紹介。 言葉を詰まらせることは必然だったのだ。だが、私は寛大な神だ。困り果てる彼にそっと助け船を出した。 「あぁ、君の名前はここではいらないよ。遠い昔に捨て置いたものを拾いに返る必要はない。私たちには相手を想い、その名を呼ぶ行為なんていらない関係だろう? これからが始まるわけでもない。どうせ私たちはこの一瞬にしか交われないんだ」
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