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「やり残したこと……あ」
散歩しながらふと思った私は、デスの方を見た。
「何か、見つかりましたか?」
「私、恋愛してない」
「え、恋愛……ですか」
「うん、恋愛」
学生の頃は人並みの恋愛なんてしたことなく、社会人になってからも仕事ばかりだった私は、恋愛をしたことがなかった。
「恋って何なのか、生きている間に知っていたかったなぁ……」
「……それなら私が教えられたかもしれないのに」
「え?」
「私はこれまでたくさんの人の旅立ちを見届けてきました。
でも、今までと何かが違う。
あなただけは、きっと何かが違った」
「デス……?」
「朝が弱い、料理や洗濯や掃除などの家事は苦手、不器用で何をやっても上手くいかない、でも……」
そこまで言って、デスは私に真剣な眼差しを向けた。
「どこかほっとけない、そう思ったんです」
そう言うデスは微笑んでいたけど、少し悲しげな表情をしてるようにも見えた。
「デス……、あの……」
「でも、死神は人間に恋心を抱いてはいけないんです」
「え……?」
「死神は人間に恋心を抱いてはいけない、そういった決まりがあります。
けれど、私はあなたを好きになってしまった。
この事実は、どう頑張っても変えられないしこの気持ちを消すこともできません」
何の迷いもなくサラサラと言葉を発していくデスに、私の思考能力は追いつかなかった。
「ちょっと待って……。
デスは、そしたらデスは、どうなるの……?」
「決まりを破ったものは消える、つまり消滅させられます」
「そんなの……そんなのダメだよっ!!」
突然大声をあげた私に、デスは驚いたようで目を見開いた。
「そんなのダメでしょ……何よ、それ……。
私を好きになったからデスは消えるの……?
意味分かんないわよ!
誰かを好きになることは、悪いことなんかじゃないじゃん!
デスまで消える必要……ないじゃん……」
そう言って泣き始めた私を見て、デスはふんわりと微笑んだ。
「だから……あなたのそういうところが好きなんですよ」
「え……?」
「あなたは、人の思いを感じることができる。
誰かの気持ちに一緒に喜んだり、悲しんだりすることができる。
そういうところが好きなんです」
「デス……」
「実際、私はあなたがいなくなった世界で生きていける気がしない。
だから、あなたと共にこの命を終わらせる、それで良いのです」
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