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息子の巣立ち
商業高校を卒業した息子は、警察学校へ入学した。これから、厳しい訓練を受けながら国を守る任務に就くのだ。真新しい制服に身を包んだ息子の晴れ姿をビデオに録画したアリサは、帰ってきた夫に公開した。それを見ていた父は息子にこう言った。
「この制服を着ると世間的にはお巡りさんだ。警察組織の中では上下があるが、市民から見れば『警察』さ。その制服に見合った中身を常に磨き続けておれよ」
「その通りだね。いつ心の底からお巡りさんと呼ばれるかわからないけど、この制服を犯罪で汚さないようにするよ」と息子は答えた。
次の日から訓練を受ける息子は、音を上げずに卒業式の日を迎えた。この日も父兄として出席したアリサは夫にビデオを公開した。
「どんな職場にも上下がある。上から理不尽な事を言われたり、何か問題が出るとお前のせいにされることがあるかもしれないが、いつかはお前も上の人になる。女は結婚して辞めるが、男はそんなわけにはいかない。何を言われても歯をくいしばって頑張るんだよ」と父は息子に言った。
「そうだね。僕もそろそろオヤジになるから、クソジジイの遠吠えなど適度に流して守るべきものは守るよ」と息子は答えた。
それから息子は警察アパートへ引っ越した。警察音楽隊に所属する息子は、同じバンドのクラリネット奏者を妻にした。次の年に子供を設けた息子は、実家へ妻子を連れて訪ねるようになった。 孫を抱くアリサは、息子一家と写真に収まった。実家でひとときを過ごした息子は、妻子と共に警察アパートへ戻るのである。
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