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その袋は先日、リネン室で迫られた後深見が「迷惑かけちゃったみたいだから、お詫びに」と言って押し付けてきたものだ。中を覗くと色とりどりのローションのボトルと、かわいらしいデザインのゴムの箱と「男同士のSEXハウツー」などとかかれたDVDのパッケージが入っていた。慌てて突っ返そうとしたが、深見は「いいっていいって! あって困るモノじゃないんだから!」と意味ありげに笑みを浮かべるばかりで受け取ろうとしないから仕方なく持って帰ってきたのだ。
たまたま置き場所に困ったからベッドの下に置いておいただけで、今日使おうと思ってわざわざ配置したわけではない、と心の中でさらに言い訳を続ける。
コップにワインを注ぎ、お誕生日おめでとうの乾杯をして、お惣菜をつつきながら二人でアクションゲームに熱中した。
少し酒も入ったせいか、さっきまでの不機嫌が嘘だったかのように若山は上機嫌だ。それに気をよくした大河内は調子に乗って若山にワインを勧める。こくこくとコップを呷る若山の目がとろんとしてきて、飲ませすぎたかも、と気づいたが、遅かった。
大河内がトイレから戻ると、床に丸まって眠ってしまっていた。
「ひ、秀ちゃん」
情けない声が出る。なんとかこの上機嫌のまま、甘い雰囲気にもっていってそのままベッドインなんてことを目論んでいたがどうやら今夜はおあずけになりそうだ。大河内はがっくりと肩を落とした。若山の機嫌が戻っただけでよしとして、今日は自分が床に寝ようなどと考えながら若山を抱き起こす。
「ほら、そんなとこで寝たら風邪引くって」
そっと腰に手を回し持ち上げると、寝ぼけた若山が首に腕を回した。内心の動揺を抑えつつベッドに横たえる。
「ん……」
大河内は離れようと身を起こしかけたが、首に回された腕にきゅっと力が入り引き戻される。
「秀ちゃん?」
「今日は、キス、しないの……?」
いつの間に目を覚ましたのか潤んだ瞳で大河内を見上げている。目を瞠って真意を確かめるように若山をみつめる。それから、ごくりと唾を飲み込んでゆっくりと答えた。
「する」、と。
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