26:若山の誕生日 その3

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「今日は、キス、しないの……?」  それは若山にとって、かなりの勇気を要した精一杯の言葉だった。  昼間、大河内に「嫉妬した」と言われてからずっと考えていた。嫉妬してもらえるのは、それだけ想いが強いということだとわかるけれど、大河内に対する自分の気持ちを疑われるのは不本意だ。口下手なせいで、それを上手く言葉に表現できないのが口惜しい。でも、なんとか伝えたい。大河内にわかってほしい。  そうなると、やっぱり態度で示していくしかないのではないか、と若山なりに考えたのだ。  恥ずかしい。けど、やらなくては。  大河内は少し驚いたようだったが、少しの間の後、「する」と言って唇を合わせてくれた。  だけど、 いつものように少し触れただけですぐに離れていこうとする。  酒の力も借りて少し大胆に首に両腕を回して離さないようにして、大河内の唇に縋りついた。そしてもっと奥深くに侵入しようと、角度を変えたりしながら舌を絡ませる。  最初、びっくりしたように動きを止めていた大河内もその動きにあわせるように若山の舌を吸い、口蓋を優しく愛撫し始めた。 「んう……」  今までのキスでは感じなかった快感が若山の中に生まれる。  舌先でじわじわと舌全体を味わうように撫でられると下半身に熱がたまっていく。口の中に二人の混ざり合った唾液がたまり飲み込む余裕もなく口元から零れた。  それが気になって口を離そうとするが、大河内に押さえ込まれさらに口の中を蹂躙される。くちゅくちゅとイヤらしい水音とともに舌を吸い上げられる。  腰と背中に回されている腕にぎゅっと力がこもり、ぴったりと体を抱き寄せられて心臓の音まで聞こえてしまいそうだ。 「ん、……ふ」  息があがって苦しい。  やっと唇が離れ、目を開くとすぐ間近に大河内の顔があった。いつものどこかあどけなさの残る優しい顔ではなくて、大人びた男を感じさせる顔。その瞳に吸い寄せられるように見つめあって、また唇が合わさる。  今度は大河内の舌は中には入ってこず若山の上唇をゆっくりと撫でるように滑り、次に下唇を同じようにするとちゅと音を立てて吸った。 「ん……」  甘い吐息が若山の口から漏れる。目を閉じたままとろんと惚けていたが、待っていても次のアクションがない。不安を感じた若山がゆっくりと瞳を開けると今度は、優しく微笑んだ大河内の顔があった。
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