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午後三時半。
ターミナル駅に直結する、「街の顔」とも言うべきシティホテル。
その十五階にあるメインダイニング「スペリオール」ではランチタイムの修羅場がようやく終わり、客足も一段落ついていた。
場所柄からビジネスマンやOLは元より、優雅なランチを楽しもうと集まるマダムや観光客などが引きも切らずに訪れるため、ランチのオーダーストップがかかる時間までなかなかの盛況ぶりなのだ。
先輩に、先に休憩を取るよう促された若山秀行が疲れた足取りで事務所兼休憩室に入ると、夜からのシフトの大河内の姿が既にあった。
三人掛けの黒の合皮張りのソファの背もたれにウェイターの制服である臙脂色のタキシードを無造作にかけ、腹這いに寝そべって少年マガジンを読んでいる。
「でんちゃん、おはよー」
ホテルマン同士の挨拶は昼だろうが夜だろうが「おはようございます」が基本だ。若山が声を掛けると、大河内はちらりと顔を上げた。
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