40:疑惑

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「ねぇ、寺田くん。少しピッチ早いんじゃない?」  先ほどから、やたらと寺田の腕や肩にボディタッチを繰り返してくる女が、おせっかいな事を言う。確か、サオリだとか名乗っていたか。世話好きで気が遣える私アピールがいい加減鼻につき始めてきていた。寺田はそれを無視して、ハイボールのジョッキをぐいと呷る。  ドタキャンするわけにもいかず、合コンにとりあえずは参加した。だが、写真の一件が頭を支配していてまったく気合が入るはずもない。いつもより早いピッチで黙々と飲み続ける寺田に、幹事である近藤も呆れた様子で発破を掛けてきた。 「寺田、何ひとりで飛ばしてんだよ。もっと盛り上がっていこうぜ」 「うっせぇな……」  呟きを漏らして再び口をつけたジョッキは、すでに空になっていた。ち、と舌打ちをして店員を呼ぼうとすると、サオリが身体を密着させてきた。 「寺田くん、こんなつまんない合コン抜け出して、二人で飲みなおさない?」  耳元で囁かれると、甘い香水の匂いに包まれ頭痛がしてきそうだった。 「……ああ、それもいいな」     
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