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寺田はふらりと立ち上がった。慌ててサオリもバッグをつかみ寺田に続く。驚いて、ぽかんと口をあけている仲間たちを尻目に、しなだれかかってくるサオリの腰に手を回した。
「俺ら、抜けるわ」
「おまっ、何勝手なこと……」
焦る近藤に万札をつかませて、不満そうな声をあげる仲間に手を振ってから、騒々しい居酒屋を後にした。
「どうする? 飲みなおすなら私、静かな店知ってるし。それとも……」
意中の男をまんまと連れ出すことに成功したせいか、サオリが興奮気味に話しかけてくる。そんなサオリから身体を離し、寺田は立ち止まった。
「俺、帰るわ」
「えっ?」
「じゃ、おつかれさん」
ポケットに手をつっこみ、踵を返す。合コンを抜け出し、家に帰るためのキッカケがほしかっただけだ。もうサオリに用はない。
「ちょ、寺田くん!?」
呼び止めるサオリを無視して、地下鉄の駅への道をふらふらと歩く。追いすがるようなみっともないマネをする女でなくて助かった。酒に酔い思考能力が鈍ってはいるが、寺田は自分がひどく自己中心的な振る舞いをしているという自覚はあった。普段ならこんな横暴なことはしない。わざわざ寺田のために合コンをセッティングしてくれた近藤にも、後から謝らなければ、と思う。
だが、今はすべてが億劫だった。
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