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「あ、秀ちん。ランチ終わった? おつかれー」
人懐っこい顔でにっこり笑い、また元のようにマガジンに視線を戻す。よほど面白い場面でも読んでいるのだろうか。いつもなら「今日のランチは忙しかったか?」だとか「昨晩のドラマは見たか?」だとかあれやこれやと話題を見つけて話しかけてくる男にしては珍しいことだ。
若山は些か拍子抜けしながらもそれ以上声を掛けることはせず、傍らのパイプ椅子に座り、タキシードの内ポケットからセーラムワンを取り出して火をつけた。一口吸うとメンソールの清涼感が口にひろがる。
若山はどちらかというと無口で大人しい性格だ。このような場面で気の利いた話を自分から持ち出せるわけもない。
手持ち無沙汰を紛らわせるためになんとなく吸い始めたタバコも、この職場に就いてからの習慣だ。
それでも特に沈黙が苦手というわけではない。たまに大河内がパラリと紙をめくる音だけが事務所内に響くこの状況も決して嫌ではなかった。
しかし、若山はふと、気になっていたことをこの際聞いて見ることにした。
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