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「ねぇ、でんちゃん」
「んぁ? 何ぃ?」
だるそうに語尾を甘く伸ばす独特の喋り方。視線はまだ少年マガジンにおとしたままだ。
「でんじろうの『でん』ってどうゆう漢字書くの?」
若山はローテーブルの上の灰皿を引き寄せ灰を落とした。言ったそばから、今さら、しかもこのタイミングでそんなことを聞くべきではなかっただろうかと後悔しはじめている。
「さぁ? たぶん電気の『電』とかじゃねぇ? ほかにでんって読める漢字なんかあったっけ……? あー、『殿』とか?」
大河内はマガジンを閉じるともぞりと身を起こし、テーブルの上のセブンスターに手を伸ばした。
「へ? 自分の名前なのに漢字わかんないの?」
「いや、わざわざ調べるほどでもないし……可知さんに聞いてみれば? 言いだしっぺあの人だから」
「へ?」
カチカチと何度か音をたててやっと点いた百円ライターでタバコに火をつけると、大河内はそれを大きく吸い込みふうっと吐き出した。白い煙が漂い、そして消えていく。
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