11:悪い虫

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「あのさぁ、でんちゃん。秀ちゃんを『かわいいなぁ、お近づきになりたいなぁ、テゴメにしたいなぁ』なんて思ってるやつはこのホテルにはまだまだいるわけよ」 「……」  自分を煽ってからかっているのだろうとわかってはいたが大河内は反論できなかった。  中性的で凛として清楚な顔立ちなのにどこか蠱惑的な表情を見せる若山は、女性だけではなく同性から見ても十分に魅力的であることを身をもって知っているからだ。 「むしろ、俺が一緒についてってそういう悪い虫がつかないようにするほうが得策と思わない?」 「……寺田さんが悪い虫にならんって保証でもあるんすか」 「手厳しいなぁ」  寺田は大げさに肩を竦めてみせた。 「俺は紳士だから、無理矢理とかは絶対ないって。まぁ、一泊旅行なんていう特殊なシチュエーションで二人の関係が急速に変わるなんて展開は大歓迎だけどねぇ?」 「でらムカつく」  憮然とした表情でぼそりと呟く大河内を尻目に、寺田はホワイトボードに貼られた用紙に『寺田慶介 出席 前半」』と楽しそうに記入したのだった。
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