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「わぁ、よかった!」
後ろで様子を窺っていた他の女の子達も、きゃぁきゃぁと色めき立っている。
「若山くんってさ、なんか近寄りがたい雰囲気あるじゃん? みんな本当はいろいろ話とかしてみたいって思ってたんだよ」
「あー、だめだめ。秀ちゃんはスペリオールの期待の新人なんだから。話をするときは俺を通してねー」
「何それー、ウチらが何か悪いことでも吹き込むみたいじゃん」
「オネーサマ方の毒牙から守らないとね」
「ひどーい! 若山くん、慶ちゃんなんかほっといて私達と一緒に遊ぼうね!」
「え、はぁ……」
普段からそう口数が多いほうではない若山だが、どうも女性の前ではさらにそれが顕著になっているのではないかと勘ぐってしまう。
カラオケのマイクが女性陣にまわったのを見計らって、寺田は話を切り出した。
「秀ちゃんは彼女とか作らないの?」
「え、まぁ、相手がみつかれば……」
とりあえず無難な答がかえってくる。
「んじゃ、いきなり『付き合ってください』とか告られたらとりあえず付き合っちゃうんだ?」
「それは、……相手によると思います」
「ふーん……?」
なんだか全部お見通しみたいな目で寺田が笑うので若山は小さく溜め息をつくと観念したように素直に思っていることを言った。
「付き合うとか、そういうのあんまり積極的に考えたことないんです。なんか苦手で。一人でいるほうが気楽っていうか……」
「まぁ、そんな感じだろうね。秀ちゃんらしい。人がどう思ってるのかとかほんと無関心っぽいしねぇ」
「あ……、すみません。自分ではそれなりに気をまわしてるつもりなんですけど、やっぱり何かと至らないところがあるみたいで……」
ご迷惑おかけします、と俯いたままぺこりと頭を下げる若山。
恋愛の話をしていたはずなのに、何故か仕事上のことで注意を受けているかのような態度の若山に、寺田は思わず苦笑する。
この子は、一体どこまで自分に寄せられる想いに鈍感なんだろう。
いや、気づかないからこそ超然として清冽な様が人を惹き付けて止まないのかもしれない。
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