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少し考えればわかることだった。
もし、何か恐ろしい事が起こっていたのなら、若山が先ほどのような暢気なメールを送れるはずがない。寺田だって『本人に聞いてみろ』だなんてそんな無神経なことを言うわけがない。
まんまとかつがれたのだ。
『よぉ、でんちゃん。おはよー』
「寺田さん! いい加減からかうのやめてくださいよ!」
『おま、声でかいよ』
「俺、本気で秀ちんが、ま、輪姦されたのかと思って……!」
『だから、俺はそんなこと言ってないっしょ』
のほほんとした感じの声に余計腹が立つ。
「マジでそっち向かうとこだったんすよ!」
『そんな怒んなって』
「昨日だって秀ちんも寺田さんも携帯つながらんし、『拉致られた』とかメール入っとるし、心配で寝れんくて……」
昨晩からたまりにたまっていた不満や鬱憤が滔滔と口をついて出る。
それを寺田が呆れたような声で遮った。
『そんなに心配ならさ、部屋に閉じ込めて鎖でもかけてつないでおけば?』
「……!」
本当にそうしたいと思ってしまった。
そうできたらどれだけこの気持ちが楽になるだろう。
自分の中にそんなどうしようもなく利己的で昏い欲望があるなんて思ってもみなかった。
大河内は携帯を握り締めたまま、しばらくその場から動くことができなかった。
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