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午後三時を少し過ぎた、事務所兼休憩室。
寺田が軽くノックをして扉を開けると、ソファに寝転がり少年マガジンを読み耽っているいつもの大河内の姿があった。
「お前さぁ……」
寺田はこれ見よがしに肩を落とし大きな溜め息をつく。
「あ、寺田さん、お疲れっす」
大河内はそれを無視するように軽い調子で挨拶を返した。
社員旅行の一件の後も実は大河内はちゃんといつも通り三時頃には休憩室に入っていたのだ。ただし、若山とシフトがずれている時限定なので若山は知る由もない。ちなみに今日の若山は朝食だけのシフトで昼少し前には帰っている。
「あからさますぎるだろ」
「もうじき読み終わりますけど、寺田さん次読みます?」
寺田の言外に責める言葉はあくまでも無視。何も言うなという無言の抗議だ。
寺田はさらにもう一つ溜め息をつくと、パイプ椅子にどかっと座り、ローテーブルの上に置かれていた箱を大河内のほうにずいっと押しやった。
「これ、秀ちゃんからのお土産」
大河内が雑誌越しにちらりと黄色のひよこのイラストが描かれた静岡銘菓に目を向けたのを確認して、寺田は言葉を続けた。
「最近 男できたらしいよ。昨日、旅行に行ってきたって。その男と一緒に」
もちろん、寺田が随分と話を大きくしている。
実際は若山が男と付き合いだしたわけでもなんでもなく、ただ一緒にドライブに行ってきたと聞いただけだ。だけど、このまま放っておけばいずれそうなる可能性がないわけではない。
「……へぇ」
ぴくりと大河内の肩が揺れるのを寺田は見逃さなかった。
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