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寺田はお菓子の包み紙を丸めて大河内めがけて投げつけた。空気の抵抗でそれは力なく大河内の手にした雑誌にかさりと当たり、落ちた。大河内は雑誌をぱたりと閉じゆっくり身を起こし、下に落ちたその紙くずを拾う。
「……秀ちゃんをそういう対象に見てるみたいな言い方するけど、寺田さんだって本気で付き合おうとかはないんじゃないんですか? 俺を焚きつけて楽しんでるだけでしょ?」
いつだって冗談めかして揶揄っているような態度と言葉。大河内は寺田の真意を未だに計りかねている。
「付き合うって、抱けるかどうかってこと?」
いきなり直截的な言葉が飛び出して大河内はどきりとした。
「い、いや。別にそこまでいかなくても」
「俺は、あのエロい泣きボクロとか見てたらむしゃぶりつきたい衝動に駆られることあるけどな」
寺田の言葉に、途端に不機嫌に口をへの字に結ぶ大河内。自分には関係ないような口ぶりをしていてもいざ、若山がそういう対象にされていると知るのはやはり、不愉快なのだ。
「お前、自分はどうなんだよ。俺とか他人のことばっか気にして牽制しておいて、お前自身はどうなりたいんだよ」
「俺、俺は……」
若山に対して強い独占欲があるのは自分でも認識している。あの社員旅行の時に思い知った。それを自分自身の中でどう処理すればいいのかわからず、持て余 しているのだ。そんな重たい感情ばかりが強くなりすぎていて、このままどんどん突き進んでしまうのは自分のためにも若山のためにもよくないと思った。だか ら、少し距離を置いたのだ。ぶっちゃければ逃げた。
それでも、若山が誰か別の人間と付き合うなんて考えるだけでもイヤだ。けど、だからといって自分がどうしたいかなんて自分でもわからなくて、結局堂々巡りで――。
ばさりと少年マガジンをローテーブルの上に置くと、大河内はむくりとソファから腰を上げた。
「トイレ、行ってきます」
「なんだ、それ」
呆れたように言う寺田の横を通り過ぎ、ドアを開ける。
「逃げてばっかいるなよ」
聞こえないフリをして後ろ手にドアを閉めた。
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