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午後三時少し前の事務所兼休憩室。大河内はノックをするとそろりと中を窺った。誰もいない。ふぅとひとつ溜め息をつき合皮張りのソファの背に臙脂色のタキシードとボウタイをばさりと掛け、腰を下ろした。だが、そわそわと落ち着かない。若山の今日のシフトが出勤になっていることは確認済みだ。いつ、現れるのか。来たらまず何て声をかけよう。
大河内は、若山ときちん向き合おうと決意を固めていた。逃げてばかりいても終わらない。落ち着かせようと思っていた感情は複雑になるばかりだ。自分一人でぐるぐると思い悩んだところで何も進まない。とりあえずここ最近避けるようにしていたことを謝って、それから自分が持て余している気持ちもできるだけちゃんと伝える。まずは、若山が現れたらどこかゆっくりできる場所で話し合うための約束をとりつけよう、と思っていた。
こんこんという軽いノックの音に、身を固くして振り返る。だが、扉から現れたのは寺田だった。
「よっす」
「お疲れっす」
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