19:遠ざかる背中

4/7
1110人が本棚に入れています
本棚に追加
/330ページ
 大河内はもやもやとした気持ちを抱えたまま、バイト開始時刻の五時少し前にパントリーに顔を出した。ちょうど、ホールからウォーターピッチャーをもった若山が戻ってくるところで、図らずも目と目が合ってしまった。 「秀ちん、おはよ」  何とか平静を装い、自然に笑顔で話しかけることができた。 「……おはよ」  対する若山は小さな声で答えると、すっと目を伏せてしまった。よそよそしい態度の若山に、大河内の不安はさらに増した。  今までは自分が意識して若山の顔を見ないようにしていたけれど、改めて向き合ってみると、若山もまた自分から目を逸らしているのだと気づく。胸がちくりと痛んだ。自分が蒔いた種だというのに、傷つくなんて自分勝手もいいところだ。その後も話しかけるタイミングを掴めないまま、終業時間を迎えてしまった。  寺田、大河内、若山と揃ってロッカールームに戻る。若山は相変わらず大河内のほうを見ようとしない。大河内もそんな若山の態度に話しかけるのをためらう。先ほどまでの決意も相当に揺らいできている。     
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!