19:遠ざかる背中

6/7
前へ
/330ページ
次へ
 若山を乗せた車はゆっくりと動き出した。運転席には山口の横顔が見えた。一瞬こちらをちらりと見て笑ったように見えたのは気のせいか。  大河内はその車の影が見えなくなるまでただ呆然と立ち尽くした。寺田や山口本人からそうと聞かされてはいたけれど、やはり実感としてなかった。目の前で現場を見せ付けられるとさすがにきつかった。自業自得という言葉が頭に浮かぶ。焦りばかりが自分の中で空回りする。  走ってきたせいで上がっていた息が治まる頃、大河内はやっと我に帰った。 「くそっ!」  小さくそう呟くと頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜてから、その場を後にして駅の方向に向かった。
/330ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1114人が本棚に入れています
本棚に追加