たくさんの正義

2/2
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
「今日は特別な日だ」 そう呟かずにはいられなかった。いつもなら眠りから目を覚ますころにはすでにカーテンの向こうから光が部屋の内に漏れるのだが、今日は違った。まだ夜明け前らしい。もうひと眠りなんてとんでもなかった。何を隠そうこの日を待ちわびてきたのだ。あと1時間もすれば国民放送がテレビであるに違いない。 この社会は50年ほど前から、エネルギー問題や人口問題、食料不足などといった問題が山積みとなってきた。もうすでに50年前の時点でそれらの問題は社会の許容範囲を超えていた。どんなに政治家たちが議論を交わしても解決しなかったし、当時の文明を駆使しても解決には至らなかった。 しかしある著名な科学者がこんなことを言い出した。 「他の星を植民地にしてしまえば、今日の問題たちは全て解決されるだろう」 と。この発言が引き金となりこの50年間といえば、天文学、宇宙科学の分野が目まぐるしい発展を遂げてきた。そして今から我々の社会はおよそ2年ほど前にとうとう植民地となる最適な星を見つけたのだ。 最適というのは、まずその星の文明がこちらの星ほど発展してないというのが一番だった。そしてその星には石油や天然ガスというエネルギー源がたくさんあることも判明した。1つ懸念材料を挙げるとすれば、その星には人と呼ばれる生命体が70億もいることだった。しかしこの星の科学者たちは、こちらの文明を総動員すれば征服するのは容易だと主張した。 そしてとうとうこの星の宇宙軍は文明を背負って「地球」へ出発したのだった。それが丁度、3ヶ月ほど前の話だ。昨日の国民放送によれば「我が星の宇宙軍はすでに地球を征服しつつある。明日の今頃には全て片付いているであろう。」とのことだった。 これでこの星の住人も平和で豊かな生活を営むことができるようになるわけだ。場合によっては我々も移住する必要が出てくるかもしれないが、新しい星での生活というものにも多少興味は出てくるものだ。 そしてテレビをつけていると、国民放送が流れた。 「ニューヨーク陥落!ニューヨーク陥落!」 ニューヨークってなんのことだ?でもそれがこの星の文明の勝利を意味する言葉であったことは分かった。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!