30人が本棚に入れています
本棚に追加
…その翌晩、俺は通夜が終わると自転車に飛び乗った。
そして、競技場の裏に停めるとグランドの方へと駆けていく。
そこには、座席に大量に座る人々…
ぼんやりとどこか一点を見つめる亡霊たちがいた。
…そして、その中にふづきの姿があった。
俺は息を切らせながらふづきに近づき…
…そして、気がつく。
ふづきも、他の亡霊と同じように、前しか見ていないことに。
俺に気づくこともなく、ただグラウンドの一点しか見ていないことに。
その瞳は大きく虚ろで何かを見ているようで…しかし何も見えていない。
…そのとき、俺のポケットの中のスマホが振動した。
相手は『メンナシ』俺はすぐに電話に出る。
『…わかったよ、はるとくん。
そこに何があったか。何がそこにいるのか。』
『メンナシ』の口調は急いだ様子で、
何か重要なことを言おうとしているのはわかった。
『そう、そこにいるのは…』
そのとき、ぷつりという音がして電話が切れた。
見れば電話は切れており、通話先も非通知に変わっている。
…何も、知るべきではないんだな。
俺はしばらくスマホを見つめ、電源を切るとふづきの隣に座る。
消えてしまう前に、今は亡き友人の隣に座る。
そうして満開の桜が咲き誇る中、何があるのかわからない
…しかし確かに何かがある競技場のグラウンドを…
俺とふづきは、ただ群集とともに静かに見つめ続けていた…。
最初のコメントを投稿しよう!