第11章「薄衣」

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…それは、薄透明な布のように見えた。 一枚の長い布。 電柱に引っかかった一メートルにも満たないそれは、 春のゆるやかな風を受け、ゆらゆらと空を泳いでいる。 …なんだ、あれ…。 俺はそれを眺めて自転車をとめる。 見れば、近くの空き地では子供の何人かがそれを拾って遊んでおり、 大人の目に届かないところで、くるまったり、引っぱりあったりしている。 …どっからか、飛んで来てるのかな。 空を見れば、また一枚の布が飛んでいる。 …風向きから考えて、流れてくるのは海沿いの方。 一番近いのは、あの廃工場跡ぐらいかな…。 しかし、あそこには鉄柵がしてあるし、 そんなものが流れて来たら住民からの苦情が来るだろう。 …それとも、これからそういう流れになるのかな? そんなことを思いつつ、俺は再びペダルに足をおく。 …そうだ、あんまりのんびりしている時間はない。 何しろ俺は大学一年生。これから教授の講義が始まる。 …急いで行かないと、出席が取れない。 そうして俺は自転車を漕ぐ。 開始時間まであと十分を切っていた。 その背中で、子供たちのはしゃぐ声が良く聞こえた…。
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