第11章「薄衣」

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『…なるほど、それで君はその布について調べてもらいたいと…。』 ドアのガラスに「さかい心療内科」と書かれたビルの一室。 机の上にライトに照らされたタブレットから流れる声は若い男性のもので、 探偵『メンナシ』は、そう言うと「むむ…」とうなってみせた…。 …我ながら、安直な理由だとは思っている。 しかし全国的な話だけに、都市伝説級の探偵である『メンナシ』なら 何か知っているかもしれないという淡い期待も抱いていた。 『…まあ、そのことについては否定はしない。  今もネットから集めた情報を元にマップを作成しているからね。  ちょうど布の成分も調査したいと思っていたところだ…』 そうなれば、ちょうどいい。 俺だってその正体を知りたい。 すると画面が切り替わり、ひとつのQRコードが表示される。 『…これを読み込むと良い。調査に役立つだろう。』 俺は、以前やった時と同じようにQRコードをスマホで読み込む。 すると、ダウンロード完了と同時に、 地図に目玉のついたアイコンと、フラスコに目玉のついたアイコンが出現した。 『…地図は布の出現状況。フラスコは布の成分を検出するためのものだ。  一度チェックされた布は別の場所に移動したときに地図に位置情報が  反映される。ゆえに、同じ布だった場合ひとめでわかるという代物だ。』 そう言うと『メンナシ』は小さくため息をつく。 『…それにしても、二度も依頼してくれるとは嬉しいね。  一度目はもう少し込み入った内容だったが…。』 それを聞き、少しだけ気分が重くなる。 …正直、以前の話はあまり思い出したくない。 あのときだって、結局自分だけが助かったようなものだ。 今度の話もそうならないことを祈るほかない…。 すると、それを知って知らずか『メンナシ』は小さく笑う。 『…まあ、人の生き死にに関しては運も左右されるからね。  君は、運の良い方なんだよ…』 そうして、『メンナシ』は言葉を続ける。 『そうそう言い忘れた。中学の時よりも随分大きくなったね。  大学入学、おめでとう…向井惣治くん、良い大学生活を。』 そして一瞬ノイズが走り、タブレットの画面は真っ暗になった…。
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