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…布を捕まえるのは、そう難しい事ではなかった。
俺は自転車を止めると、
通りすがりに見つけた看板に引っかかった布をとる。
それは、つるつるとして、どこか触った事のあるような質感を帯びており
両手で持ってみると羽のように軽かった。
…結局、これ…なんなんだろう。
そんなことを思いつつもフラスコのアプリで写真を撮ると
画面一杯に『解析中』の文字が出る。
そうして、次に出てきた解析の残り時間を見て、俺は驚く。
…解析完了まで約1440分?
単純計算すれば24時間。丸一日かかる計算だ。
『…どうやら、それだけ情報量の多い物質らしい。
君のスマホでは容量に制限があるから、
こちらのほうにデータを随時コピーして負担を減らそう。』
…気がつくと、スマホから『メンナシ』の声が聞こえて来る。
以前もそうだったが、突然電話をかけてくるので心臓に悪い。
そして、悪びれもなく『メンナシ』は言葉を続ける。
『…しかし拡大してみると、どうやらこれは非常に細かい毛の集まりのようだ。
互いの結びつきが強く、お互いが接合する事により一つの形を維持している。』
細かい毛の塊…しかしながら、それはつるつるとした触感をしていて…
その疑問に気づいたのだろう。『メンナシ』が補足をする。
『…あまりにも細か過ぎれば、人の感覚器官では面としか認識出来ない。
習字紙だってつるつるしているが拡大してみれば細かい繊維の集まりだ。
…ようはそう言う話さ。』
…なるほどね。
そんなことを思っていると、ふと子供の声がした。
「よーし、また一枚ゲットお!」
「兄ちゃん、また重ねようよ。あれ面白いじゃん。」
「そうだな、家にもって帰って重ねよう!」
そうして、ふり帰ると一枚の布を持ち去る二人の子供の後ろ姿があった。
『…布を、重ねる。』
気がつくと『メンナシ』が何か考え込むようにうなってみせた。
『…そうだな、もう少し考える事ができた。また後で連絡しよう。』
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