第11章「薄衣」

8/9
前へ
/169ページ
次へ
そして、その翌日。 学校に向かう時のことだ。 「やりぃー、これでひゃくまーい!」 見れば、ひとりの少年が向こうの方から走ってくる。 その手には件の布が握られており少年はそれを得意そうに持って行く。 そのとき、スマホが振動した。 見れば『メンナシ』からもらったアプリの地図が起動しており、 この辺りで赤い丸が移動しているのがわかる。 …そうか。昨日、俺が調べた布とあの少年が見つけた布は一緒か…。 そうして目で追って行くと、少年はずっとそこに隠していたのか 広い空き地に積まれた土管のひとつへと向かっていく。 見れば、何枚かの布がはみだしており、隠せているようで隠せていない。 しかし少年はそれにも気づかず、 興奮した顔で百枚目の布を持って土管の中に入り… …次の瞬間、はみでていた布が瞬時に中に入るのが見えた。 俺は一瞬目を疑うも、その直後に土管の反対側から 少年が這い出てくるのを見てほっとする。 しかしその表情に先ほどの興奮は見られなく、 彼は冷めたような表情で汚れていたのか数回ほど膝をはたく。 …そのとき、俺は見た。 はたかれた膝。 そのとき一瞬だけ膝がゆがんだように見えたのを。 …いや、違う。それは輪になった布だった。 布を輪にし、膝の形に固めたそれ。 それが一瞬崩れた…そんなように俺には見えたのだ。 そして、少年はそのまま俺の横をすりぬけると、 いつのまにか遠くで手を振る別の少年の元へと走る。 そのとき、スマホがまた振動する。 見れば、なぜかマークしていた布が移動しており、 道路側…俺が立っている道路からさらに北上をしていた。 そして、手を振っていた少年は先ほどの光景を見ていなかったのか、 合流すると相手の少年に無邪気に聞く。 「おう、また布あつめしようぜ?  俺、とうとう78枚までいったんだよ。」 すると、冷めた表情をした少年はそっけなく言った。 「ううん、もういいよ。なんだか飽きちゃった。」 「なあんだよ、お前冷たいなあ。あんなにはしゃいでたのに。」 「…そうか?それよりゲームして遊ぼうよ。新作が家にあるんだ。」 そうして、二人の少年は向こうの方へと駆けて行く。 地図上のマークも同じように移動して行く。 俺は、その様子を呆然として眺めていたが、 ふと手に持ったスマホが三たびに渡って振動している事に気がつく。 それは電話のコール音。 相手は『メンナシ』俺はすぐに電話に出る。
/169ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加