第11章「薄衣」

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『…大丈夫かい?まだ、布は集めているかい?』 俺はその質問に「いいや」と応える。 すると『メンナシ』は声をひそめて言った。 『…良かった。いや、実は状況はあまりよくない。  いいか、よく聞いてくれ…』 …そのとき、俺は気づく。 何か空き地の方から匂いがしてくる事に。 何か生臭い匂いがしてくる事に。 俺はスマホを耳に当てたまま、そっと歩き出す。 『…いいか、落ち着いて聞いてくれ。  先月、自己破産し閉鎖した製薬会社と繊維工場があった。』 一歩一歩進むたび、匂いはますます強くなり、 胸のあたりから吐き気がこみ上げて来る。 『…しかしそれは表向きの顔。  事実、そこはナノテクノロジーの人口生命体を開発していた会社だった。  そして、繊維質ながらも自己増殖を行うロボットの生産に成功したところで  会社は倒産。数百体以上のタンパク質構造を持つナノロボットが全国にある  子会社の工場に放置された…』 生臭い匂い、その元は土管の方からただよってくる。 『…そして、本来ならロボットはそのまま工場で凍結されるはずだった…  何しろ危険すぎる要素がそのプログラムの中に入っていたからだ。』 俺は、おそるおそる土管の中を覗き…中にあるものに総毛立つ。 『…それは、人の臓器や、手、足、皮膚へと代わるタンパク質のロボット。  医療用となるべきはずのロボットだったんだ…しかし一定状の質量が  集まることで人工知能が連結して自立し、対象を襲い、成り代わろうと  し始めることから開発が中止された…』 …そして、『メンナシ』は最後にこう言った。 『…だから、布に近づいてはいけない。それは危険な物なのだから。』 …そう言うと、スマホは切れた。 しかし俺はその手を下ろす事ができない。 目の前の物から、目を離す事ができない。 …そうだ、最初にあの布に触ったとき、何かに似ていると思っていた。 それは、人の皮膚の感触。自分たちの持つ皮膚の感触。 そして、目の前にある物は…。 俺は、目の前にある肉の固まりを見る。 …それは横たわる、赤黒い肉の固まり。 あるはずの布と引き換えに置かれた、肉の固まり。 しかし、今やその正体が何か分かってしまった俺は、 この場から目を離す事ができなかった…。
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