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「…と、短時間に意識を失っている間、
あなたはそんな幻覚を見る訳ですね。」
そう言うと、カウンセラーの春日井先生は
パソコンにぱちぱちと何かを打ち込む。
そして、画面にざっと目を通すと上目遣いにこう聞いた。
「…そして、それが起きたのは一年前、
あなたのいとこである木原貴理子さんが
事故に遭って亡くなったからと…。
そういうことでよろしいですね。」
メンタルクリニックの一室。
そこで患者用のソファに座る私はその質問に小さくうなずいた。
「…ふむ、そしてそれから一年間のあいだ…
実生活のあいだに何度か意識が飛ぶことがあり、
そのたび、あなたは先ほど話した幻覚を見ると…。」
私は、それに小さくうつむく。
…そう、それで私は悩んでいた。
相手から見ればただの居眠り。
しかし、自分としてはよくわからない幻覚を見ている状態。
家の中ならまだいいが、学生生活としてはままならない。
…正直、どうしたらいいのかわからないのが現状だ。
すると、春日井先生は再びパソコンに目を戻し、言葉を続ける。
「…そうですね…。
眠くなるのは学校生活のストレスの可能性がありますし、
幻覚を見るのは友人の死によるストレスの可能性があります。
…ですが、あなたの健康状態を見る限り軽い睡眠障害以外は
特に問題がないようにも見えますし…
…良かったら、ここに相談をしてみたらどうでしょう。」
そして、一枚の名刺を差し出す。
そこには「さかい心療内科」という名前が書かれていた。
「…どうも、この件は私の専門外な気がしましてね。
紹介状を書きますから、それを持ってここに行ってください。
それで、解決出来る問題なら解決出来るでしょう…。」
そうして、パチパチとパソコンを打ち出す先生に
私は名刺を手に取って眺める。
「さかい心療内科」…名前と住所だけのそっけない名刺。
私はその名前を見つめたあと、春日井先生にお礼を言って席を立った…。
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